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白き言霊 ~H少年からの贈り物 その9~

シーボーズ
亡霊怪獣 シーボーズ ~ 『ウルトラマン』 第35話「怪獣墓場」 ラァーヴ!!  
 
 

 一年の殆んどを氷雪に囲まれて生活するエスキモーには、「白」を表現する語彙が豊富であると間々聞き及びます。一説では数十種類だとか。真偽はどうあれ。「何も無い色」と捉えられがちな白ですが、それが自分たちの営為、況してや生命に深く関わっている圏域では、その“無色”から沢山の情報を読み取らなければならず、遵って充分有り得る話しなのでしょう。
 この「何も無い色」という概念。スペイン語圏では「白」を“blanco”(ブランコ)と表記・発音し、イタリア語は“bianco”(ビヤンコ)、そしてフランス語では「モン・ブラン」でお馴染みの“blanc”(ブラン)となります。いずれも「何も無い」という含意があり、英語の“blank”(ブランク)なんかも、これの同義派生語に相当。面白いのは、ブランコだのビヤンコだの「白色」を示す言葉が、英語では“black”(ブラック)、つまり「黒色」として伝播したことです。土地柄や文化、そして国を違えば、「何も無い色」が白になったり黒になったり。言語は、それを使う人びとを映し出す、まさに鏡なんですね。
 さて日本語には「ほんのり」だとか「はんなり」だとか、幽かで微妙なニュアンスを表現する言葉が数多く存生します。風流を好むお国柄からなのでしょうか。水をいっぱいに汲んだ甕を覗き込んで、そこに有るか無きかの蒼みを見い出す、所謂「甕のぞきの色」なんかは、そういった古人の繊細な感覚の顕われでしょう。また、かき氷に無色透明のシロップを浸潤させて食す“氷すい”なんて酔狂も、「侘び・寂び」の理念がいまだ日本人の中に息衝いている証左のような気がします。
 しかし一方で、昨今のTVニュースを見れば、ちょっと難しい漢字を安易に平仮名で表記してこます趨勢ではありませんか。真綿でじわじわ絞め殺す「言葉狩り」に、少なからず危惧を覚える日日また日日です。曾てスターリンは、自身の出生地であるグルジアの言語を、「犬の言葉」などと詰って弾圧しました。人間が本気を出せば、言葉なんて簡単に死に絶えるもの。変化変容はあるべきだと思いますが、絶滅はダメでしょ、絶滅はー。
 ところで本項文頭に記した“エスキモー”ですが。これも「生肉を食べる者」という誤った解釈から、カナダ政府によって差別用語と位置付けられ、“イヌイット”に置き換えられてしまいました。この頓狂な曲解に、ご丁寧にも準じたのは日本のマスコミだけだったとか。エスキモーたちが白い世界からどれだけ多くの色味を見い出しているか、そして彼ら自身が“エスキモー”の呼称にどれだけ誇りを抱いているか。それを慮外に置く者の、何と想像力を欠いた蛮行であることか!
 写真の人形は、白の成型色に薄っすらと黒のスプレーが掛けられただけの、その名も“亡霊怪獣”。これを「ただの手抜き」と断じて、無下に斬って棄てるか。それともこの白き亡霊に、仄かで幽かな、しかし確たる存在の拍動を感じるか。繊細さを推し量る試金石は、喉元に刀の切っ先を突き付け、斯く言います。さぁ、オマエはどっちなんだ?(怪獣ラァーヴ)



Data :

  • シーボーズ : 『ウルトラ怪獣シリーズ』No.22 (バンダイ 1991年)

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