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★ 怪獣紀行 ~ネス湖篇~

ジラース
   怪獣を求めて、いざ最果ての地へ

 1991年9月。英国を旅行した際、折角だからとネス湖まで足を伸ばした。
 ロンドンのヒースロー空港にて搭乗したのは、何とも心許無い双発のプロペラ機。有ろうことか、通路を塞ぐ補助席がバタン、バタン、バタンと!遠足のバスか?これらも尽く埋まった満席状態の機内、止しゃあ良いのに無理矢理な機内食(クラッカーとチーズとナッツ)をプロバイド。「ハイ、それでは順繰りに後ろへ回して~」と、トレイが次々と頭上を滑ってゆく。何と言う窮屈。それでも、絵に描いたような嘘っぽい緑地と沼沢群を眼下に眺めつつ、2時間足らずでネス湖最寄りの町・“インヴァネス”に無事到着した。こんな短時間のフライトで、ミールなぞ要らんだろうに。狭い思いまでして。
 曇り。気温9℃。北緯57度以上に位置する9月のインヴァネスは寒い。最早冬。備え無しの身は小刻みに震え、薄着の油断を悔いたが後の祭りだ。「世界中何処へ行っても日本人の姿」は、ここでは例外。酔狂な東洋人が珍しいのか、或いは素朴で保守的な土地柄の所為か、現地の人たちの刺すような視線が、暗鬱とした街並みに融け込んでいた。この町には晴天の日など無く、人びとは陽の目を見たことさえ無いのでは?そんな感慨もひとしお。
 それでも世界に、少なくとも日本には名立たる“ネス湖”。活況であろう観光業を想定し、事も無げな交通アクセスを当てにしていたが、これがハズレ。ネス湖行きのバスなど出ておらず、余所へ行く為に通り掛かるならまだしも、もとよりそんな辺鄙な場所を目的地とするのは、正気の沙汰ではないといった町構えだ。仕方無くタクシーを拾うも、「ネス湖へ」と申し付けたときの運転手の怪訝そうな顔つきときたら...。
 そもそも町の資金源とも成り得そうなマスコットの扱いは、ほんの申し訳程度。数軒の土産屋を覗いても、目ぼしいネッシー・グッズは見受けられなかった。何処かで見たような写真を配らった絵葉書数葉と、稚拙な作りの紙細工人形、そして相当に草臥れた塩梅の縫いぐるみ...。絵葉書の為に支払ったイギリス・ポンドも、お釣りとして返って来るのはスコットランド・ポンド。日本では“ネッシー(Nessie)”の愛称で知られるが、当地では“Loch Ness Monster”(「Loch」は、細長い水路のような湖を指す)が一般的。その呼び名からでさえ、意想外な冷遇を受けたのである。


インヴァネス
アカデミーストリート へ Go!
   町ぐるみで余所余所しい

 小規模なインヴァネスの古風な街並みは、すぐに郊外の田舎風景へと取って代わった。牧歌的と云うよりは、侘びしき落莫。あの『原子心母』(ピンク・フロイド 1970年)のアルバム・ジャケットを髣髴とさせる、ホルスタインが草地にちらほら。「怪獣を見に来たのか?」という運転手の社交辞令もそこそこに、唯空しく内燃機関の音だけが車内を征服していた。
 而して車を滑らせること数十分。勾配の緩い丘陵と立ち枯れた木々の間、出し抜けにその水域は現われた。ここがネス湖...。向こう岸が見える。川?何の感極まりも無い凡庸な景観。日本の何処か、例えば長野県とかで見たことのあるような。普通。飽くまでも普通。何でもない場所。ここに恐竜が?そんな霊妙さは微塵も無い。「ひっそり」と言うよりは、開けた土地に「呆気らかん」と。
 いい加減、もう分別有る良いオトナ。ネス湖のネッシーは絵空事。弁えている積もりではあったが、「話のネタに」なんてむらっ気。これがいけない。作り事であるにせよ、「せめて雰囲気ぐらいは」などという淡い期待は脆くも雲散霧消、弾けて飛んでどっかへ消えた。「こんな処に太古の恐竜」などというファンタジー、その介在を厘毛も許さぬ眼前の現実。斯様なロマンスの欠如を一番熟知していたのは、矢張り現地の人たちか。なれば町で感じたあのシラケように、溜飲が下がるというもの。
 「ここいらが好い眺望、“ドラマティック・ヴュー”だよ」 そう言って、キッとブレーキ。何も奇勝を望んだ訳ではなく、ネス湖に求めていたのは、ひたすらに妖しきムードだ。それが容易く裏切られても尚、「ここまで来たんだから」という貧乏性が頭を擡げた。で、運転手推薦のここいらで下車。「帰るまでここで待ってようか?」と言うスコッツの親切を辞し、1時間くらいは居ようと決心、否覚悟。が、これが大間違いの元だった。
 何となれば、ここは容赦無きカントリー・ロード。ロロロロロ~ッとタクシーが走り去った爾後、長い水路に沿った一本道にマシーン・車輌の一切、その影すら見ることも無し。「それでもそのうち、きっといつかは」なんて、これが甘い。幾葉かの景勝をカメラに収めつつも、頭上を覆っていた曇天の如く、次第にもくもくと不安が募り垂れ込める。それをよそにチチチチチ~ッと長閑な禽獣の囀り、邪魔する内燃機関の爆発音やら、兎に角人為的な音の類い合切無し。これが田舎の恐怖。しかも勝手違う異邦。糅てて加えて降雨。寒い。滅多矢鱈と寒い。ロンドンへ還るプロペラ機さえも、今は心許足る存在だ。離陸時刻を懸念。


ネス湖
   ありふれた眺め...ひたすら寒いだけ。

 見窄らしく潮垂れた日本人は、英国北方の湖畔で3時間ほど震えていた。晴天なら夕陽時か。もとより曇天・雨天だった今は、時刻の割りに更に暗くなっただけ。半遭難者にしたら、逢魔が時である。“大禍時”なら、いっそネッシー...。だがしかしその水面は、相変わらずただひたすらに雨滴を撥ね返すだけだ。何て芸の無い...。己の身勝手な心当てと不備えは棚に上げて大事に仕舞っといて、何の罪も無い平々凡々たる湖を闇雲に呪詛呪詛呪詛。そうこうするうちに闇。車をすっ飛ばして、1時間ほど掛かった道程。もはや何も無い田舎道を歩いて行こうなどという気概も挫け、膝抱えてその場に座し、居直り往生を決め込む。ガタガタガタガタ...。気温は恐らく5℃以下。
 と、夜を射抜くヘッドライト二つ。ルルルルル~ッ。間違いなく轍の回転音、内燃機関の爆発だ!大型車輌、観光バスか?ヒッチハイク経験は、以前豪州で何回か。なれど此度は命懸けの車止め、形振り構っている場合ではない。行く手に立ち塞がって大仰な手振り、眩耀の中で人影が描いた「大」の字。
 キッキィ~ッ、プッシュゥ~ッ...ドッドッドッドッ...。停まった!満身に浴びたる頼もしき光熱、幾千万カンデラに匹敵。その人工的な燭光が懐かしく、冷え切った肌に嬉しかった。自動扉が二つに折れ、最果ての地で漸うスコットランドに受け入れられた日本人。遭難未遂者を乗せて、バスは夜道を行く。いざ去らば、有り触れた湖よ。恐竜の想い出とともに。ゴメンね、呪ったりなんかして。(怪獣ラァーヴ)


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Comments:2

Pipi URL 2010-10-19 (火) 11:37

初めまして。
旅行記に惹かれてコメント初投稿です!

ネス湖。
何もないと書かれているのですが、何故か行きたくなりまして。

その飛行機はあまり乗りたくないけど…

やはり何も起こらないんですね。
でも、「もしかしたら…」という癖が小さい頃から抜けず
どうしても信じてしまう私です。

怪獣は正直詳しくないのですが、古いおもちゃやおもちゃ箱が大好きな私の最近面白かった場所。

北原照久の超驚愕現代アート展
http://kitahara-collection.com/roppongihills/

おススメですよ。

私もネス湖へ旅行を来年の予定に組み込みます。
帰りにヒッチハイクは避けたいものですが(笑)

ラァーヴ URL 2010-10-19 (火) 14:00

はじめまして。ようこそ怪獣ラァーヴへ。コメントありがとうございます。

行きますか、来年、ネス湖へ。

ならば、インヴァネスへも立ち寄ることになると思いますが。ロンドンより更に古風な街並みで、いいところですよ。
ブログに載せたインヴァネスの写真を、良かったらクリックしてみて下さい。グーグル・アースで近年の同場所を見ることができます。20年前と全く変わらぬ町構えは、時間の停止を思わせます。

ネス湖と言えば、あの古城。私は行きませんでしたが、どうぞPipiさんは足を延ばして下さい。“何か”あるかも知れませんよ!?
そのときはくれぐれも計画的に、帰ることもちゃんと考えて行動して下さいね。と、反面教師からのひと言でしたー。

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